IRTS/NIRS&MIRSによる点源天体の研究

未完(99/06/15 update)

IRTS(InfraRed Telescope in Space)は日本初の赤外線天文衛星である。 1995年3月18日に宇宙開発事業団のH-2ロケット3号機で、SFU(Space Flier Unit) と呼ばれる汎用衛星ユニットの一部に組み込まれて打ち上げられ、 3月30日から4月24日にかけての26日間に全天の約7%の領域をサーベイ観測した。 IRTSは主鏡口径15cmの液体ヘリウムで冷却された望遠鏡に、 4種類の赤外観測装置を搭載し、それぞれ違った波長で宇宙空間を観測した。

IRTSはもともと、空に薄く広がった輻射成分を観測することを狙った装置だが、 4つの観測装置のうちの近赤外分光器NIRS、中間赤外分光器MIRSの2つは 数多くの点源天体を検出した。そのほとんどはK,Mなどのスペクトルを持つ 晩期型の恒星である。IRTSによって得られたこれらの星の均質で多量のスペクトルは、 地上から観測できない重要な波長域を含んでおり、これらの星の性質を 調べる上で、重要なデータとなっている。


IRTS/NIRS,MIRSによる点源天体の赤外スペクトル

IRTS/NIRS&MIRSによって観測された天元天体のスペクトルの例を示す。
(左) さまざまな恒星のスペクトル。Alpha Capは太陽とほぼ同じスペクトル型の 星である。このような星では、表面の温度が6000度と比較的高く、赤外線領域では 目立った特徴を示さない。X Horは、M型の赤色巨星である。表面温度は3000度近く にまで下がり、恒星大気中で分子が作られるようになる。この図では、2ミクロンや 3ミクロン付近に水蒸気(H2O)分子による吸収の特徴が見えている。 また、4から5ミクロンにかけての深い吸収は一酸化炭素(CO)や一酸化ケイ素(SiO)等に 寄るものである。同じく、M7のスペクトルタイプを持つ星でも、RR Aqlでは上にあげた 分子の吸収がより深くなっているうえ、10ミクロン付近にシリケイトダストによる 輻射バンドが見えている。このダストの輻射バンドは、星の表面から宇宙空間に 流れ出た物質中で作られるもので、この星が活発な質量放出現象を行っていることを 示している。さらに一番下のIRC-10529では、激しい質量放出によるダスト粒子が 星自身をすっぽり覆い隠し、星本体の特徴的なスペクトルを弱めている。 T Lyrはここにあげた星の中では特異で、表面での炭素原子の割合が酸素原子よりも多い、 「炭素星」と呼ばれる特殊な星である。この星では、C2H2 (アセチレン, 3.1, 7.5ミクロン)やHCN(シアン化水素, 3.0, 7.1ミクロン)、 C3(5〜6ミクロン)などの、炭素を含む分子の吸収が目立っている。

(右) IRAS 19200+1403は、compact HII regionと呼ばれる天体で、 生まれて間もない、高温(>3万度)の星が放つ強い紫外線によって、 周囲のガスを電離し、温めているような領域である。このような領域では、 紫外線によって炭素質のダストが励起され、6.2, 7.7, 8.6, 11.2ミクロン付近に 特徴的な輻射のバンドを示す。その起源が未だに良く分かっていないことから、 赤外未同定バンド(Unidentified Infrared band)と呼ばれている。 最後のCeresは、小惑星である。これら小惑星は、太陽の光によって 約300度に温められた黒体として見られる。今後の解析によって、 これらの天体のスペクトルのさらに詳しい特徴が分かると期待される。


関連論文リスト
IRTSホームページ(文部省宇宙科学研究所赤外グループ)
e-mail: yamamura@astro.isas.ac.jp
戻る