ISO/SWSによる進化末期天体の研究

未完(99/06/10 update)

ISOはESA(ヨーロッパ宇宙機関)およびその参加国が中心となって開発し、 日本の宇宙科学研究所とアメリカのNASAの協力によって運用された 赤外宇宙天文台である。ISOは1995年11月17日に打ち上げられ、 1998年4月8日、冷却用液体ヘリウムが 尽きるまで27ヶ月間(予定の寿命より1年近く長い!)観測を行った。

以下に述べるように、赤外線による観測は、特に低温の宇宙を探るのに 大変強力な手段である。が、地球の大気中に含まれる水蒸気や二酸化炭素 が宇宙からの赤外線を遮ってしまうので、地上の望遠鏡からでは 限られた情報しか得ることができない。人工衛星をあげてまで 観測をするのは、この隠された(かつ重要な)部分を含めた完全な 宇宙の姿を探ろうとするためである。

我々のグループでは、ISOの観測装置の一つSWS(短波長領域の分光器)に よって得られたデータを元に、AGB、あるいはpost-AGBと呼ばれる 進化末期の恒星の研究を行っている。


図1. ISO/SWSでみた赤色巨星

ここに示すのは、我々がISO/SWSで観測した赤色巨星のうちの代表2つの スペクトルである。これらの星は、太陽のような比較的質量の小さい星の 進化の最終段階にあり、星内部での激しい核反応によるエネルギーを逃すため、 星の半径は太陽が地球をのみこむほどに膨張している。膨張した星の表面 では温度が低い(といっても2000-3000度)ので、様々な分子が出来、 それが赤外線領域のスペクトルで観測される。

図に上げた2つの星は、いずれも赤色巨星であるが、表面の炭素と酸素の 原子の量が、UX Cygの場合には酸素の方が多く(太陽など通常の宇宙では 酸素の方が2倍程度多いのが普通である)、一方R Sclでは炭素の方が多い (このような特殊な星を「炭素星」と呼ぶ)。

宇宙空間では、酸素と炭素が存在するとまず一酸化炭素(CO)の分子が つくられる。炭素と酸素のうちどちらか少ない方は、COを作るのに全て 使い果たされてしまい、余った方の原子は、他の相手を探して様々な 分子をつくる。 酸素が多い方の星では、H2O(水)、SiO(一酸化硅素)、 CO2(二酸化炭素)、二酸化硫黄(SO2)等が つくられ、一方炭素が多い場合にはC3、 C2H2(アセチレン)、HCN(シアン化水素)、 CS(硫化炭素)などの分子が出来ていることが図から分かる。

これらの星のスペクトルの違いは、分子だけに留まらない。星から 十分離れて温度が下がったところでは、ダスト微粒子の形成が始まる。 上に述べたのと同じ理由で、酸素原子が多い場合は硅素やマグネシウムの 酸化物(通常シリケイトダストと呼ぶ)を中心としたダストが作られ、 これは10micronを中心とした幅広い放射/吸収のスペクトルを見せる (UX Cyg)。一方、炭素星の場合には、煤のような炭素質のダストの他、 11.3 micronにピークを持つ炭化硅素(SiC)のダストが出来ることが 知られている。


図2. SO2バンドの発見

図1のUX Cygのスペクトルに見られるSO2は、 実は今回のISO/SWSの観測によってその存在が初めて明らかになった ものである。というのは、この波長帯(7micron付近)は、地球大気が 邪魔をして詳しい観測がほとんど行われておらず、また、理論計算からも SO2分子は赤色巨星の表面ではできないと考えられて いたからである。我々の持っている40個あまりの星のスペクトルを 詳細にチェックした結果、UX Cygを含めて3天体から、明瞭な SO2の赤外線バンドを検出した。興味深いのは、 SO2バンドが吸収だけではなく、輻射バンドとしても 見えているということ。また、検出された星の 一つT Cepを、我々は1年半に渡って繰り返し観測しており、 この星においては、SO2バンドが輻射から吸収へと 時間とともに変化していることが見て取れる。ここに示された 3つの星はいずれもミラ型変光星であるが、T CepにおけるSO2 バンドの変化は、この脈動の周期と一致していない。

我々の解析の結果(赤で示されたのが、モデル計算によるスペクトルである)、 この分子は星の半径の2-5倍程度のところにまで広がっており、 分子の温度は典型的に600Kと、星表面の温度よりかなり低いことが分かった。

これまでの予想に反して、SO2分子がこのように大量に存在している 理由はまだ良く分かっていない。また、控えめに見積もっても、 SO2が存在する領域の密度は、これまで考えられてきた よりも数桁大きいことが示唆されている。すなわち、星の半径の 数倍の辺りに、非常に密度の濃い、雲のような層があると考えられ、 そこでは星の表面とは違った、活発な化学反応によりSO2の ような分子が形成されているのだと予想される。この予想の検証が 今後の研究の課題となっている。



つづく....
e-mail: yamamura@astro.isas.ac.jp
戻る