「あかり」の観測成果

「あかり」がとらえた円熟期の星の姿

― 球状星団NGC104の中の若い赤色巨星からの質量放出現象の発見 ―

「あかり」による波長3マイクロメートルから24マイクロメートルでの観測により、比較的若い赤色巨星から、これまで検出されていなかった質量放出が起きている証拠を見つけました。この結果は、円熟期から終末期に向かう星の進化に新しい知見を与えます。


NGC104は, 47 Tucとも呼ばれ, 南半球で見られる巨嘴鳥座に存在する, 百万個程度の星が球状に集まった星の集まりです。我々の太陽系からの距離は約1.5万光年と見積もられています。この球状星団は現在から約110億年前に出来たもので, 寿命の短い重い星達は既に死に絶えています。現在星団内に存在し明るく輝いている星は, ほぼすべて元々太陽と同じくらいの質量であった星達です。太陽は現在約50億歳で, この球状星団で今明るく輝いている星は太陽の約60億年後の未来の姿を表しています。すでに太陽から60億年歳をとっているため, これらの星は燃料である水素を中心部で使いきり, 赤色巨星となっていて我々の太陽とは違う進化段階を迎えています。恒星進化の理論は, 赤色巨星となった太陽はその後自分の質量の4割くらいを宇宙空間に放出し, 最終的には元々あった質量の6割程度の質量を持った白色矮星になると予測しています。この現象を質量放出と呼びます。質量は星が輝くための燃料ですから, 質量放出がどの進化段階でどれくらいの規模で起こるかによって, その後の進化の状態が変わります。また放出された物質は星間物質の進化に影響を与えます。質量放出の過程は, 星の進化を理解するだけでなく, 銀河の進化を理解する上でも非常に重要です。質量放出している星は, 放出した物質を温め, 赤外線で明るく輝きます。理論的には赤色巨星の初期段階から質量放出が起こることが予想されています。しかし, 赤外線観測によりこれまで多くの質量放出星が検出されてきましたが, すべて赤色巨星の最末期にある星ばかりで, 初期段階にある星から質量放出を見つけた例はありませんでした。

今回, 「あかり」に搭載されている近・中間赤外線カメラ(IRC)によりNGC104の波長3, 4, 7, 11, 15, 24ミクロンの観測を行い, 赤色巨星の初期段階で質量放出をしている星を発見しました。図1に3, 11, 24ミクロンから合成したカラー図を示します。図で赤くかつ明るく見えている星は, 赤色巨星の中でも最末期段階にある星で, 1年間に太陽質量の百万分の1程度の質量を宇宙空間に放出する割合で質量放出を行っている星達です。赤色巨星の初期段階の星は, 同じように赤いものの, これらの星と比べてやや暗く観測されます。この図で左下に赤丸で示した星が, 今回初めて検出された赤色巨星初期段階で質量放出している星です。この観測結果から, 赤色巨星の初期段階にある星も質量放出をしていることが観測的に初めて確認されました。また, この星と同じ進化段階にあるのに質量放出をしていない星も多数みつかっており, 初期段階での質量放出は定常的ではなく間欠的, しかも短時間に起きている事が示唆されます。さらに, 6つの波長のデータを詳しく調べた結果, 初期段階で放出される物質の性質が最末期における物質とは違うこともわかってきました。今後, 更に詳しくデータを解析し, 現在の恒星進化理論と観測結果を比べる事で, 太陽がこの先どのように進化していくのか, また, 太陽の進化が惑星系に及ぼす影響等について明らかになると考えています。

Fig.1

図1. 「あかり」搭載近・中間赤外カメラ(IRC)によるNGC104の3, 11, 24ミクロン3色合成図。約40 40光年の大きさの画像。図で赤くかつ明るく見えている星は, 赤色巨星の中でも最末期段階にある星で, 100万年に太陽一個分程度の質量を宇宙空間に放出する規模の質量放出を行っています。今回この観測によって見つかったやや暗い赤色巨星(図の赤丸)は, 赤色巨星の初期段階にあるにもかかわらず, 質量放出をしているものと考えられます。

この研究は, 宇宙航空研究開発機構(JAXA)研究員の板 由房氏及び東京大学大学院理学系研究科大学院生の松永典之氏が中心になって行っている研究です。

Materials

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