「あかり」の観測成果

赤外線でせまる巨大ブラックホールを持つ活動銀河核のまわりの分子ガス

―超高光度赤外線銀河UGC05101の活動銀河核のまわりの分子ガスの検出―

「あかり」は、活動銀河核と呼ばれる巨大ブラックホールを、さまざまな温度の分子ガスが取り囲んでいる証拠を見つけ、活動銀河核の構造を解き明かす重要なデータを得ました。


大熊座にあるUGC05101は、我々から約5億5千万光年にある銀河です。この銀河の中心核は赤外線で大変に明るく輝いているため、超高光度赤外線銀河と呼ばれています。その赤外線放出エネルギーの総量は、太陽が放出するエネルギー総量の一兆倍におよびます。しかしながら、この銀河の中心核領域は、厚い星間物質で覆われているため、今までの観測では中心まで見通すことができず、中心核領域で何が起きているのかは、明らかではありませんでした。

「あかり」は、その優れた赤外線感度を活かして、UGC05101銀河の中心核の謎に挑みました。赤外線は、星間物質に対して高い透過力を持っているため、中心核の謎を解明することが期待されるからです。図1に「あかり」に搭載された近・中間赤外線カメラ(IRC)で観測されたUGC05101の2ミクロンから13ミクロンまでの分光スペクトルを示します。このような赤外線のスペクトルには、図のようにさまざまな分子、原子、イオンの吸収構造、輝線構造が見られます。それぞれの吸収、輝線を起こしている物質を図に示してあります。例えば、波長3ミクロン付近に見られるのは、水の氷による吸収であり、これはこの銀河全体が約摂氏-200度以下の非常に冷たい分子ガスに覆われていることを示しています。

Fig.1

図1. 「あかり」搭載の近・中間赤外線カメラIRCによる赤外線高光度銀河UGC05101の赤外線スペクトル。色の違いは、装置の中で区別されている波長帯を示します。さまざまな吸収バンド、輝線バンドがみられ、それぞれのもととなる物質が示されています。今回注目しているのは4.5-5ミクロンにかけてのCOガスの吸収バンドです。

一方、4.5ミクロンから5ミクロンにかけてみられる吸収線は、一酸化炭素(CO)ガスによる吸収と考えられています。観測された吸収バンドは非常に広い幅を持っていました。これは、この分子ガスの温度が摂氏500度を超えるような高温の状態にあることを示しています。UGC05101銀河の中心には、太陽の質量の100万倍を超えるような超大質量のブラックホールが存在する可能性が示唆されています。巨大ブラックホールに、その周りの物質が落ち込んでいく際には、莫大なエネルギーが放射されることが予想されます。「あかり」が検出した高温の分子ガスは、このようなブラックホール近傍からの放射エネルギーにより温められているのではないかと考えられています。

図2に、「あかり」が明らかにしたこの銀河の中心核領域の概念図を示します。この銀河の中心核は、非常に冷たいガスに覆い隠されているため、今までは中心部で何が起きているかは分かりませんでした。今回の「あかり」による観測は、この極低温のガスに隠された内側で、極めて活動的な現象がおきていることを明らかにしました。

Fig.2

図2. 活動銀河核をとりまく星間物質の想像図. 明るい部分の中心にブラックホールがあると考えられています。

この研究は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)教授の中川貴雄氏、同機構研究員の白旗麻衣氏が中心になって行っている研究です。

Materials

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