「あかり」の観測成果

最新成果 1: 宇宙の大河を渡る超巨星

- 「あかり」が解き明かす赤色超巨星の星風 ~ 星間物質境界の衝撃波 -

宇宙を流れる星間物質の大河を、オリオン座の一等星ベテルギウスが横切って突き進む様を、赤外線天文衛星「あかり」がこれまでにない高い解像度で捉えました。この観測により、星から吹き出すガスが星間ガスと激しく衝突し、混じり合う様子が詳しくわかりました。


ベテルギウスはオリオン座の左上に赤く明るく輝く星で、我々からの距離は約 640 光年です。「あかり」に搭載されている観測装置の一つ、遠赤外線サーベイヤ(FIS)によって、この星の周辺を、65, 90, 140, 160 マイクロメートル(1 マイクロメートルは 1000 分の 1 ミリメートル)の 4 種類の波長で観測しました。図 1 に、65, 90, 140 マイクロメートルのデータをそれぞれ青・緑・赤の三色に割り当てて合成した疑似カラーイメージを示します。中心に青白く輝くベテルギウスを取り囲むように、弧状に光る構造が見えます。ここで、ベテルギウスの周囲の物質と、星間物質が衝突していると考えられます。

Fig.1

図 1: 「あかり」遠赤外線サーベイヤ(FIS)による、ベテルギウスの周辺の観測結果。65, 90, 140 マイクロメートルのイメージデータをそれぞれ青・緑・赤の三色に割り当てて合成した疑似カラーイメージ。ベテルギウスが星間物質に対して進む方向に、星から吹き出た物質と、星間物質が衝突して出来たバウ・ショック(弧状衝撃波)が見える。バウ・ショックの差し渡しは約 3 光年に及ぶ。ベテルギウス本体を貫き、左上から右下に延びる白い光は、観測装置の影響である。

宇宙の星と星の間は、星間物質とよばれる密度の低いガスやダスト(塵)で満たされています。年老いた星から四方八方に吹き出したガスやダストの流れ(星風)は、最終的には星間物質にぶつかって止まり、星間物質と混ざりあっていきます。星風が星間物質にぶつかるところでは、物質の密度や圧力が急激に変化する、衝撃波と呼ばれる現象が発生します。ベテルギウスは、この図で右下手前から左上奥に向かって星間空間を動いているため、進行方向の前面にあたる左上側で、より強い衝撃波が発生していると考えられます(図 2)。このような独特な形状の衝撃波をバウ・ショック(弧状衝撃波)と呼んでいます。

Fig.2

図 2: ベテルギウスからの星風(赤)と、星間物質(青)が高速で衝突し、物質の密 度や圧力の不連続な境界面(バウショック=弧状衝撃波、水色)ができる様子の模式図。ベテルギウスは、画面右下手前から左上奥に向かって進んでいる。

ベテルギウスの星風とそのまわりの星間物質の間で衝撃波が発生していることは、25 年前に欧米により打ち上げられた史上初の赤外線衛星 IRAS(アイラス)による観測からも示唆されていました。しかし、IRAS の観測では空間分解能(視力)が充分ではなかったため、詳しい状況は分かっていませんでした。今回の「あかり」の画像は、これまでよりも数倍解像度が高く、衝撃波の細かい構造まで、初めて詳しく調べることが出来ました。

バウ・ショックの弧の形状は、ガスの速度や衝突の方向などの条件から、理論計算によって正確に予測する事ができます。「あかり」の画像の解析から、ベテルギウスの周辺には、星間物質の大きな流れがあり、ベテルギウスはその大河を横切るように動いていることがわかりました。この大きな流れは、オリオン座の大星雲やその周辺で次々に生まれている、若く・大きい星の集団が、まわりの物質を吹き飛ばしているものの一部です。ベテルギウスの付近では、内側から順に掃き寄せられてきた比較的濃い星間物質が、時速 4 万 km という速度で流れていると考えられます。ベテルギウスは、この流れをほぼ横切るような向きに、時速 11 万 km で動いています。ベテルギウスから吹き出す、時速 6 万 km の物質が、船の舳先のように星間物質の川をかき分けているところが、バウ・ショックとして見えているのです。

ベテルギウスのように年老いた星は、星の中で新しく核融合反応で作られた元素を、星の表面からガスやダストとして周囲にまき散らし、星間物質に混ぜ込みます。この星間物質から、次世代の星や惑星が誕生します。このような過程が何世代にもわたって繰り返されることにより、星間物質は宇宙のなかで循環し、変化を遂げていくのです。「あかり」による観測で、星間物質と星風がぶつかり、バウ・ショックを形成している例が多数見つかっています。今回のような解析をさらに進めていき、このような星々の周囲の環境を学んで行く事により、星々で合成された物質が最終的にどのような状態で宇宙空間に放出され、どのように星間物質と混ざり合っていくのか、という星間物質の進化、宇宙物質の輪廻転生についての問題を解いていく鍵を今後さらに得ていくことが期待されています。

この研究は, デンバー大学(University of Denver)の植田稔也助教、国立天文台岡山天体物理観測所の泉浦秀行助教、JAXA 宇宙科学研究本部の山村一誠准教授が中心となり、東京大学、国立天文台、京都大学の研究者との共同で行われました。

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