「あかり」の観測成果

最新成果 3: 「あかり」が探る大マゼラン星雲の超新星残骸

- 「あかり」のデータで初めて見つかったダスト(塵)の成分 -

「あかり」に搭載された近・中間赤外線カメラ(IRC)が、大マゼラン星雲中に存在する超新星残骸を捉えました。「あかり」が世界で初めて観測した波長のデータも含めた解析から、超新星残骸中のダスト(塵)に、これまで知られていなかった新しい成分があることがわかりました。このことは、これまで考えられていたよりも多くのダストが、超新星爆発の衝撃で壊されずに生き残ることを示唆しています。


大マゼラン星雲は、我々の天の川銀河のお供とされる小さな銀河で、地球からは約 16 万光年の距離にあります。星と星の間を漂う星間物質の研究を行う上で、比較的近くにあり、また銀河の生業の全貌を見ることが出来る大マゼラン星雲は、重要な研究対象です。このため、「あかり」は、大マゼラン星雲中心部の広い領域について、系統的な観測を行いました。

太陽の約 8 倍よりも重い星は、一生の最後を超新星爆発で終えると考えられています。超新星爆発は、莫大なエネルギーと、大量の重元素を宇宙にまき散らします。超新星爆発の衝撃で、星間ダストの多くが破壊されると考えられています。超新星爆発の後に残された超新星残骸の様子を調べることで、我々は爆発がどのようにして起こったか、また爆発によって星間物質にどのような変化が現れたかを知ることが出来ます。星間物質から新しい星や、地球のような惑星が作られることを考えると、星間物質中で起こっているさまざまな変化を理解することが大変重要であることが分かると思います。

大マゼラン星雲中には、これまでの研究で約 40 個の超新星残骸が見つかっています。その約半分が今回の「あかり」の観測領域に含まれています。これらを一つ一つ調べたところ、8 天体について赤外線で明るく輝いていることがわかりました。

図 1 は、その 8 つの天体について、波長 7, 11, および 15 マイクロメートルで得られた画像を、それぞれ青・緑・赤の三色に割り当てて合成した、疑似カラー画像です。この画像には、様々な形をした超新星残骸の、興味深い特徴が見えています。図 1 に載せた超新星残骸のほとんどは、きれいなシェル状の構造をしています。これは、超新星爆発の衝撃波が、内側から星間物質を掃き寄せて出来たものだと考えられます。赤外線で主に光っているのは、高温のプラズマガスで暖められたダストです。プラズマガスが放つ X 線を捉えた画像(等高線: NASA のチャンドラ衛星による)と「あかり」のデータが非常によく似ていることもこのことを示唆しています。

Fig.1

図 1: 「あかり」近・中間赤外線カメラ (IRC) による、大マゼラン星雲中の 8 つの超新星残骸の中間赤外線イメージ。波長 7, 11, および 15 マイクロメートルで得られた画像を、それぞれ青・緑・赤の三色に割り当てて合成した、疑似カラー画像。等高線は、NASA のチャンドラ衛星による、X 線の明るさを示す。各画像の左下の線は、20 光年の長さを示す。

「あかり」の観測データは、超新星残骸の性質と星間ダストのリサイクルを理解する上で、重要な情報を与えてくれます。波長 11, 15 マイクロメートルの「あかり」ならではの観測データは、超新星残骸にこれまで知られていなかった、高温のダスト成分が存在することを示しました。上に述べたとおり、超新星爆発の衝撃で星間ダストの多くが破壊されると考えられていますが、今回の結果は、破壊される星間ダストの量がこれまで考えられていたよりも少なく、高温になりやすい小さなダストが残っていることを示唆しています。今後、さらに詳しい解析が進むことで、超新星残骸や、超新星爆発が周辺の星間物質に与える影響についての我々の理解が、飛躍的に進むものと期待しされています。

この研究は、ソウル大学の Ji Yeon Seok 大学院生、Bon-Chul Koo 教授、東京大学の尾中敬教授を中心に、ソウル大学、東京大学、名古屋大学、国立天文台、ペンシルバニア州立大学、トロント大学、JAXA 宇宙科学研究本部、Sejong 大学の研究者の共同で行われています。

Materials

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