「あかり」の観測成果

赤外線・X線で探る超新星残骸での宇宙塵生成:火の玉から誕生する生命の素

赤外線天文衛星「あかり」とX線天文衛星「すざく」による「(通称)ティコの超新星残骸」の観測は、超新星の爆風と星間物質が衝突する様子を明らかにするとともに、核融合暴走型(Ia型)超新星残骸から放出された物質中で塵(固体微粒子)が生成されている可能性を世界で初めて示しました。惑星の原料ともなる塵が、超新星爆発に伴ってどのように作られ、また壊されるのかは、いまだに全容がわかっておらず、非常に貴重なデータです。 この研究は、石原大助研究員ら名古屋大学の研究グループを中心に行われ、欧州の学術雑誌アストロノミー&アストロフィジックス2010年10月号に発表されました。


「ティコの超新星残骸(SN 1572)」は、デンマークの著名な天文学者ティコ・ブラーエ(Tycho Brahe)が1572年にカシオペア座で発見した超新星爆発の残骸です。地球から約5千~1万光年の距離にあり、12光年(約8分角)に広がっています。空間的に分解して観測することができ、かつ爆発から現在までの歴史を追うことができる、核融合暴走型(Ia)の超新星残骸として貴重なサンプルです。

星の中の核融合反応で合成された比較的重い元素は、星の最期とともに星間空間へ放出されます。そして次世代の星や、その周りで形成される惑星系の材料となります。このプロセスを理解することは、惑星や生命の起源を探ることに繋がります。超新星爆発の衝撃波と高温プラズマに晒された過酷な環境下での塵(固体微粒子)の生成と生き残り、特に生命の素となる重い元素の供給を担う核融合暴走型(Ia型)超新星残骸での塵の生成は、重要な研究課題です。

Fig.1

図 1: ティコの超新星残骸の多波長合成画像。X線がとらえた膨張する高温プラズマの球(青く表示)のまわりに、暖かい塵が放射する赤外線(赤く表示)が見えている。緑は電波で観測された星間分子雲の分布。

図 1 は、X線・赤外線・電波で観測した「ティコの超新星残骸」の合成図です。青で示したのがX線で観測した高温プラズマの分布で、温度は約一千万度、毎秒3,000 kmの早さで膨張しています。緑で示したのは電波で観測した一酸化炭素分子の分布です。水素分子を主成分とする「分子雲」の存在を示します。超新星残骸は、画面右上方向で遮る物もなく自由に膨張し続けている一方、画面左から左上方向では分子雲とぶつかっています。赤で示した波長24マイクロメータの赤外線画像は比較的暖かい(-170℃)塵の放射を表しており、高温プラズマが分子雲にぶつかっているところで明るく光っています。分子雲のあるところでは、「あかり」による波長90マイクロメートルや140マイクロメートルの観測により、もとから星間空間に存在している冷たい(-260℃)塵も大量に検出されており、膨張する超新星残骸が濃い星間物質を加熱し、明るく光らせていると考えられます。高温プラズマに取込まれた塵は、150年程度で壊されてしまいます。

一方、高温プラズマ球の右上の部分では、分子ガス(緑色)が殆ど無いにもかかわらず、塵の赤外線(赤色)が明るく光っています。「すざく」によるX線観測からは、超新星から画面右上の方向に多く物質が放出されたことがわかっています。これらのデータは、超新星から放出された鉄などの元素が凝縮して、塵が新たに作られた可能性を示しています。新しく生成された塵の量は、爆発した星の質量の1万分の1に相当します。核融合暴走型(Ia)超新星で塵の生成の兆候が見られたのは世界で初めてです。

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