「あかり」の観測成果

星空の砂金採り ~ 「あかり」による世界最大の小惑星カタログ

赤外線天文衛星「あかり」全天サーベイ観測の膨大なデータから、砂金採りのように小惑星の存在のわずかな形跡を1つ1つ探し出し、小惑星カタログが作られました。このカタログには小惑星5120個が掲載されており、小惑星の大きさを収録したものとしては世界最大のものです。日本の天文衛星によって世界中の研究者が参照するデータベースを提供するという意義は大きく、小惑星の詳細な研究が国内外でさらに発展することが期待されます。


この数年で、惑星科学、中でも小惑星に関する研究は飛躍的に進展を見せています。特に、小惑星探査機「はやぶさ」のように、小惑星を訪れてその場で観測したり、その岩石試料を地球に持ち帰ったりすることすら可能な時代になりました。しかし、小惑星は現時点で50万個以上の存在が知られていて、そのすべてを訪れるわけにはいきません。そこで天文観測によって小惑星の性質を調べていく必要があります。ところが、存在は知られていても性質がよくわかっていない小惑星は非常に多く、もっとも基本的な量のひとつである小惑星の大きさすらあまりわかっていませんでした。これは、小惑星がとても小さな天体で、大型望遠鏡を使っても大きさを実測することができないからです。

JAXA宇宙科学研究所の臼井文彦を中心とする研究チームは、さまざまな小惑星の性質を明らかにするために、「あかり」全天サーベイの観測データから小惑星の情報を抽出することを考えました。「あかり」の観測装置は赤外線で小惑星を観測するのにとても適していて、さらに全天サーベイは天空を広く偏りなく観測しているので、数多くの天体の均質なデータを揃えるのにうってつけなのです。この貴重なデータを小惑星の研究に活かさない手はありません。

「あかり」全天サーベイの観測データからは、星や星雲、銀河などの情報を集めた赤外線天体カタログが作成され、2010年3月に公開されています(『新世代の赤外線天体カタログ、日本から世界に公開へ』2010年3月30日 参照)。 しかし、太陽系の天体は星空のなかを時々刻々と移動しているため、天球上の同じ位置にあるという条件で検出確認を行っていた赤外線天体カタログでは、このような移動天体はデータ処理の過程で取り除かれていました。今回、研究チームは、特別な解析手法を開発し、取り除かれていたデータと既知の小惑星の位置情報を照らし合わせることで、小惑星からの赤外線放射を検出することに成功しました。これは、砂金採りのように、無数のデータから、わずかに光輝く小惑星のシグナルを拾い集めるという、地道な作業の積み重ねによるものです。

太陽光を反射して輝く小惑星の明るさは、大きさだけではなく表面の反射率[1] が関係しています。そのため、明るさだけから大きさを推定するとかなりの誤差を含んでしまいます。一方、小惑星が太陽から受けた光の大部分は表面で吸収され小惑星を暖め赤外線として放射されるので、赤外線の強度をもとにすることで小惑星の大きさを精度よく決めることができます。

このようにして、「あかり」全天サーベイの観測データから、小惑星5120個を検出し、それぞれについて観測された赤外線の強度から大きさを求めて、小惑星の大きさに関する世界最大のカタログ[2] が完成しました。 この「あかり」小惑星カタログでは、直径が10kmを越える小惑星はほぼ網羅されています。 得られた小惑星の大きさと、小惑星の軌道などの情報を組み合わせて詳しく調べることで、小惑星そのものの起源や太陽系の質量分布、さらには太陽系がどのようにして生まれたかについて重要な手がかりを得ることができます。

完成した小惑星カタログは、JAXA宇宙科学研究所から全世界に公開され、誰でも自由に使うことができます。このカタログを用いた最初の研究成果は日本天文学会欧文研究報告2011年10月25日号に掲載されます。

「あかり」小惑星カタログの作成は、JAXA 宇宙科学研究所を中心に、国立天文台、ドイツ・マックス・プランク地球外物理学研究所、韓国・ソウル大学、東北大学、名古屋大学、東京大学に所属する研究者の協力で行われています。

Fig.1

図 1 (クリックで再生 ファイル形式: mp4): 「あかり」が検出した5120個の小惑星の軌道運動を、全天サーベイの観測データが取得されていた2006年4月24日から2007年8月26日まで動画にした。太陽、地球、火星、木星の位置と公転軌道も描かれている。それぞれの位置は天体の軌道情報をもとに計算した。「あかり」で求められた小惑星の大きさと表面の反射率に対応して点の大きさと色を区別して描いてある。

Fig.2

図 2: 「あかり」が検出した5120個の小惑星の2007年8月26日時点における太陽系内の分布。 小惑星の分布は一様ではなく、主に木星の運動に大きく影響されている。小惑星が多く集中しているのは火星と木星の軌道の間で、これらはメインベルト小惑星と呼ばれている。この他に、木星軌道の周辺の木星トロヤ群小惑星、地球軌道に接近する可能性のある近地球型小惑星などがある。それぞれのグループで小惑星の性質が異なることが知られており、その起源の違いを反映していると考えられている。「あかり」は地球から見た太陽と天体のなす角が90度の方向を観測していたため、近地球型小惑星は、地球に近づいたタイミングで検出しやすい傾向がある。


  1. 小惑星の光の反射率は平均的には10% 程度だが、天体により大きく異なる。これは、小惑星表面の組成や状態の違いを反映している。
  2. 2011年10月現在、小惑星の大きさに関する公開データとしては、掲載されている小惑星の数が世界最大。過去の研究では、アメリカ・イギリス・オランダが共同で開発し1983年に打ち上げられたIRAS(アイラス)衛星による小惑星約2000個のカタログが最大のものだった。 なお、小惑星探査機「はやぶさ」がサンプルリターンを成功させたイトカワや、次期小惑星探査機「はやぶさ2」の探査対象天体の候補である1999 JU3 については、「あかり」では全天サーベイではなく、指向観測モードを使って詳細な調査が行われている (『赤外線天文衛星「あかり」、小惑星探査機「はやぶさ」が旅立った後の小惑星イトカワの観測に成功!』2007年8月22日 参照)。

Catalogue data files

Link to DARTS

『「あかり」を使った小惑星カタログ』を意味する英語(the Asteroid catalog using AKARI)の頭文字を取って、"AcuA" (アクア)と呼ばれている。

Materials

↑top