「あかり」超新星残骸に一酸化炭素を検出

秋から冬の夜空にWを描くカシオペア座の中にあるカシオペア座Aは、我々の銀河系でもっとも最近(約330年前)に起きた超新星爆発の残骸と考えられています。地球から約1万1千光年のところにあるこの天体は、3千万度という非常に温度の高いガスに満たされていることがX線の観測で知られていました。今回「あかり」(註1)はこのカシオペア座A超新星残骸に多量の一酸化炭素のガスが存在することを発見しました。

スピッツァー宇宙望遠鏡(註2)によるカシオペア座A超新星残骸の画像の中で、波長4.5マイクロメートルで予想外に明るく輝く場所がみつかっていました。アメリカと日本の共同研究グループは、これが一酸化炭素分子によるものではないかと考え、「あかり」でこの場所を観測して、赤外線スペクトルを得ることに成功しました(図1)。スペクトルには、一酸化炭素の特徴を示す二つの山がはっきりと現れ、この場所に大量の一酸化炭素ガスがあることが初めてわかりました。

一酸化炭素は炭素と酸素からなる、宇宙には普遍的に存在する分子ですが、超新星残骸のような高温のガス中では分子は簡単に壊れてしまうので、今回のカシオペア座Aでの検出は、想定外の発見です。この一酸化炭素分子が、超新星爆発の時に出来てそのまま生き残っているのか、それとも最近作られたのかはわかりませんが、若い超新星残骸に一酸化炭素がどうして存在していられるのかは、大きな謎です。

今回の発見は、宇宙空間における物質の進化の研究に対して大きなインパクトを与えます。炭素と酸素は、水素やヘリウムについで、宇宙にたくさん存在する元素で、宇宙空間に浮遊する固体の微粒子(塵)の主要な成分として知られています。超新星残骸に含まれる炭素原子と酸素原子の多くが一酸化炭素になっているとすると、他の化合物ができにくくなります。つまり一酸化炭素が多量に存在すると、固体の微粒子も作られにくくなります。固体の微粒子は、光を熱に変えて星間ガスを温めたり、逆に赤外線を放って冷やすなど、宇宙空間の熱環境を支配する主要な要素です。また新しい分子の生成など、星間空間の化学過程にも影響を与えています。宇宙が今の姿になるための物質進化に、固体微粒子は欠かせない重要な役割を果たしています。超新星爆発は宇宙の初期における固体の微粒子の主要な供給源で、その後の宇宙の進化を決める重要な現象と考えられていましたが、今回の一酸化炭素分子の検出はこの仮説に大きな疑問を投げかける結果となりました。

この研究はアメリカのSETI研究所およびNASAエイムズ研究センターのJeonghee Rho博士、 NASAエイムズ研究センターのWilliam Reach博士、東京大学の尾中敬教授、カナダのウェスタンオンタリオ (Western Ontario) 大学の Jan Cami博士のグループにより行われ、2012年2月8日 Astrophysical Journal Letters に掲載されました。

Fig.1
図1:(左下)スピッツァー宇宙望遠鏡(赤: 21 マイクロメートル、緑: 4.5 マイクロメートル)、チャンドラ衛星(青: X線)の観測データからの合成した、超新星残骸カシオペア座Aの画像。赤は主にダスト、青は高温ガスの分布を示している。緑色は一酸化炭素分子の存在を示唆している。(右上)画像の一部分(丸で囲んだ位置)を「あかり」が観測したところ、一酸化炭素の存在を示す特徴的なスペクトルが得られた。白で示したのが観測されたスペクトル、水色はモデル計算によって予測されたスペクトルで、両者は良く一致している。


註1:
2006年に打上げられた日本初の赤外線天文衛星。2011年11月に運用を終了したが、それまでに得られた膨大な観測データの解析が、今も続けられている。

註2:
NASAが2003年に打上げた赤外線天文衛星。口径85センチメートルの望遠鏡を搭載。


<資料>
・図 : 高解像度版 イメージのみ スペクトルのみ
  [図のクレジット]
  イメージ: J. Rho/NASA/JPL-Caltech/CXC
  スペクトル: J. Rho/JAXA/SETI institute

観測成果のページへ戻る