IRTSによる 赤外未同定(UIR)バンドの観測


図1 : 星の分布
図2 : 天の川の赤外線スペクトル
図3 : 3.3μm UIRバンドの分布

銀河系は、数多くの星々が円盤状に集まったものです。 その中にある地球から見ると、帯状の「天の川」として見ることができます。

IRTS も、天の川の一部を観測しました。 このうち、波長3μm付近の赤外線で観測した結果が図1です。 この図は、星が放射している赤外線の強さを表わしています。 赤外線で見ると、星の円盤を横から見た、という様子が可視光よりもよくわかります。 これは、銀河系内の空間に漂っている「ちり(星間塵; 固体微粒子のこと)」のために、 光が弱められるという性質(減光)があるのですが、 この効果が赤外線では可視光より小さいので、遠くまで見通せるからです。

銀河系内の星と星の間の空間、すなわち星間空間には、 希薄ながらガスや星間塵が存在していることが知られています。 では、その星間塵はどういう物質でしょうか? また、ガスや星間塵の中間的な大きさの物質はあるのでしょうか?

IRTSの観測では、そうした問いのヒントになる結果も得られています。 IRTSによる分光観測の結果、天の川では、 図2のような赤外線スペクトルを示すことがわかりました。 この図で、波長 3.3、6.2、7.7、8.2、11 μm のところに、 スペクトル輝線が見られます。 これは明るい星雲で見つかっている 赤外未同定 (UIR; Unidentified Infrared)バンドと呼ばれる スペクトルとほぼ同じものであると考えられます。 3.3μmのバンドだけを取り出してその空間強度分布を図1と同じ領域について描くと、 図3のようになります。 中央の2つ目玉は、W51と呼ばれる活発な星形成領域ですが、 それ以外にも、天の川に沿ってUIRバンド放射が広く検出されていることがわかります。 一般の星間空間からこれだけはっきりとUIRバンドを検出したのは、 IRTSが初めてです。

「未同定」という名前が示す通り、 何がUIRバンドを放射しているかわからなかったのですが、 今では 「 多環芳香族炭化水素 (PAH; Polycyclic Aromatic Hydrocarbon)」分子、 またはその分子構造を含む物質であると考えられています。 多環芳香族炭化水素というのは、 ベンゼン環が平面(亀の甲?)状に多数連なった分子です。 IRTSの結果は、こうした有機質の物質が、 宇宙空間に広く漂っていることを明らかにしました。


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Masahiro Tanaka <masa @ ir.isas.jaxa.jp>
Last modified: Oct 28, 1999