「あかり」の観測成果

「あかり」の広域観測が明らかにした星形成の系譜

―こぎつね座IC4954/4955星雲領域の3世代にわたる星形成連鎖―

こぎつね座IC4954/4955は、我々の太陽系から約6500光年の距離にある反射星雲です。「あかり」に搭載された近・中間赤外線カメラ(IRC)及び遠赤外線サーベイヤ(FIS)によりこの領域を赤外線の7つの波長(9, 11, 18, 65, 90, 140, 160ミクロン)で観測を行い、1光年から100光年のスケールで3世代にわたる星形成連鎖の証拠を捉えました。


星は密度の高い分子雲中でさまざまなきっかけにより、生まれると考えられています。超新星爆発や質量の大きな星からの恒星風の影響により、星間物質が掃き集められ密度が高くなり、星形成が誘発される現象がこれまで知られていました。今回、「あかり」による波長9ミクロンから160ミクロンまでの観測により、1光年から100光年の空間スケールで、このような誘発された星形成を示唆する証拠を捉えました。生まれたばかりの星は大量の星間物質に取り囲まれて、星からの光が吸収されてしまうため、直接可視光で観測することは困難です。吸収された光は赤外線で再放射されるため、生まれたばかりの星の観測には赤外線が非常に有効です。

図1(左)は、波長9(青), 11(緑), 18(赤)ミクロンの画像から合成したカラー図です。赤は、質量の大きな若い星により高温に温められた星間物質からの赤外線を示します。9, 11ミクロンは、主に星間空間中に存在する有機物からの赤外線を見ています。図で白いところには、9-18ミクロンの光で明るいところに、このような有機物が多数存在し密度が高い星間物質があると考えられます。はっきりと見える 2つの円弧は、中心にある質量の大きな若い星(白の+)が周りの星間雲を侵食し、掃き集めていく様子を表しています。円弧と中心の星との距離は約1光年です。一方、遠赤外線の合成カラー図(図1(右))は、若い星のまわりで温度が高く(青)なっており、若い星がエネルギー源であることを示しています。よくみると、2つの青い領域の間にも赤く遠赤外線で光っている部分が広がっています。これは、この領域にエネルギー源はないものの、星を作る材料の星間物質が大量に存在することを示唆します。実際、可視光の写真ではこの領域は暗く写っており、星間物質で光が遮断されていることと一致します。このように遠赤外線のデータは可視域では見えない物質の検出に有効です。

Fig.1a Fig.1b

図1.(左)「あかり」搭載IRCによるIC4954/4955領域の9, 11, 18ミクロン合成カラー図。13光年 20光年の領域。赤の丸印は若い星の分布を表しています。(右)FISによる遠赤外線65, 90, 140ミクロンからの合成カラー図。

図1(左)の中の赤の丸印は、地上から行われた波長2ミクロン帯の観測から抽出した生まれたばかりの星の分布を示します。今回の「あかり」の観測では、一部の生まれたばかりの星からの11ミクロンの光を初めて検出し、誕生したばかりの星の証拠を得ました。生まれたばかりの星は、主に白い領域の周りと遠赤外線で赤く光っている2つの星雲の間の領域に集中していることがわかります。今回の観測から、IC4954/4955の領域で、若い星(お父さん・お母さん星)が星間物質を掃き集めて次の世代の星(子供星)を作っていく様子が明らかになりました。親と子供星との間には1光年程度の距離があります。

さらに広い領域に目をむけて、約20倍広い領域に対して「あかり」の観測から9ミクロンと18ミクロンの合成カラー図を作ったのが図2です。この図で一番明るく見えているのが上で説明したIC4954/4955領域ですが、中央部に空洞が見られます。空洞の大きさは100光年程度です。我々は、数百万年から1千万年前に、空洞の中央部分で第一世代の星(おじいさん・おばあさん星)が形成され、その影響で現在のIC4954/4955の第2世代の星ができていると推定しています。今回の「あかり」の観測により、1光年から数十光年のスケールで、3世代にわたり星形成連鎖が起きている証拠を赤外線で捉えることができました。

Fig.2

図2. 「あかり」搭載IRCによるIC4954/4955周辺領域のさしわたし110光年の領域の9, 18ミクロン合成カラー図。中心近くで明るく光っているのがIC4954/4955です。図中で赤、白で光っている点はすべて赤外線で光っている星です。中央部に直径50光年程度の暗い領域があることがわかります。

この研究は東京大学大学院理学系研究科学術支援研究員の石原大助氏が中心になって行っている研究です。

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