「あかり」の観測成果

最新成果 2: 消えた宇宙塵(うちゅうじん)の謎

- 「あかり」による球状星団に漂う冷たいダスト(塵)の探査 -

赤外線天文衛星「あかり」による高感度の遠赤外線観測によって、年老いた星の集団である球状星団の、星と星の間が「空っぽ」であることが確かめられました。年老いた星が放出するダスト(塵)によって満たされているはずの星間空間が、なぜ空っぽなのか。ダストはどこへどのように消えていったのか?この結果は、星間空間でのダストの進化や球状星団の進化に大きな謎を投げかけています。


球状星団は、10 万個から 100 万個の星が球状に集まった星の集団で、我々の銀河系を取り巻くように存在しています。球状星団は、100 億年以上前に誕生し、その中の星はほぼ一気に生まれたと考えられています。そのため、寿命の短い、重い星たちはすでにその生涯を終え、現在では太陽と同じくらいの質量の星が老齢の赤色巨星に進化しているところです。年老いた星は、大量のガスやダストを宇宙空間に放出することが知られています。球状星団に含まれる星々も同様で、その姿は「あかり」をはじめとする多くの観測によって明らかにされてきました。銀河の中では、放出されたガスやダストは星と星の間を漂う星間物質として存在し、次世代の星を作る材料となります。「あかり」などによる赤外線観測によって、星間物質、特にダストが何処にどのように存在しているか、を詳しく調べることが出来ます。

ところが、球状星団においては放出された物質の行方がわからないのです。予想では、重力によって球状星団の中心部に落ち込み、そこに溜まっていると考えられるのですが、これまでの観測ではそのような証拠は見つけられていません。そこで今回、「あかり」の遠赤外線サーベイヤ(FIS)を用いて、12 個の球状星団において冷たい星間ダストの存在を探ることにしました。これまでの観測に比べて感度、解像度ともに優れた「あかり」の観測でしたが、やはり星間ダストの存在を示す明確な証拠は見つかりませんでした。

図 1 はその一つ、南天のとけい座にある、我々から約 53,000 光年離れた球状星団 NGC1261 の結果です。「あかり」の観測は、FIS による波長 90 マイクロメートルのデータに加え、赤外線カメラ(IRC)による、波長 4 および 15 マイクロメートルでの観測データも合わせ、それぞれ赤・青・緑として疑似カラー合成をしました。ここでは遠赤外線(90 マイクロメートル)で明るい天体が赤く表示されています。ところが、視野内にいくつか見える赤い天体は、いずれも遠方の銀河である可能性が高いことが分かりました。これらの銀河中には大量のダストが定常的に存在し、それが遠赤外線で明るく輝いているのだと考えられます。これとは対照的に、球状星団の中央部(画面中心)には、青く見える星のみしか見られず、冷たい星間ダストが存在しないことが明らかになりました。

Fig.1

図 1: 「あかり」による球状星団 NGC 1261 の周辺の 4, 15, 90 マイクロメートル による観測データを、それぞれ青・緑・赤に割り当てた、疑似カラーイメージ。中央に青い点がたくさん集まっているのが、球状星団の星々です。画面周辺に7個の赤い点がありますが、これらは球状星団とは関係のない背景の銀河であることが確認されました。これらの銀河中には、定常的に星間ダストが存在し、遠赤外線で赤く輝いて見えます。対照的に、視野中心部にある球状星団では青白く光る星のみが見られ、星間ダストが存在しないことが確認されました。

球状星団の中にある年老いた星からは、ガスやダストが放出されているはずです。星の数を考えると、今回の観測結果は、いずれの球状星団においても放出されたダストが、たかだか数百万年のうちに何処かに「消えて」しまわないと説明できません。では何処に行くのか?星の表面に降り積もるとも言われていますが、数百万年という短時間では無理なようです。今回の「あかり」の観測は、星間空間でのダストの進化や球状星団の進化について、天文学者にまた新しい問題を投げかけました。今後の研究の進展で、この謎が解かれることを期待したいと思います。

この研究は、京都大学の松永典之研究員(日本学術振興会)が中心となり、東京大学、国立天文台、デンバー大学、JAXA 宇宙科学研究本部の研究者と共同で行っています。

Materials

↑top