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観測開始から1年、「あかり」が見た宇宙

2006年5月に本観測を開始した「あかり」は大きなトラブルもなく順調に観測を進め、一年が経ちました。この間、二回にわたって全天を観測し、90 %以上の領域を二回以上観測する事が出来ました(確実に天体を観測するため、我々は二回以上観測する事を条件としています)。全天を赤外線で観測するのは、1983年に打ち上げられたIRAS衛星以来。そして「あかり」はIRASよりも数倍詳細な宇宙の地図を作製する事ができます。このようは観測は今後もまずないでしょう。

今回発表するのは、全天サーベイデータから作成した、赤外線で見た宇宙の姿です。

我々の銀河系は渦を巻く円盤のような形をしています。銀河系の中には、可視光線で光っている星の他にも、マイナス200℃以下にもなる冷たいガスや塵がたくさん含まれています。ガスや塵の分布にはむらがあって、濃くなったところには重力でますます集中し、やがてその中心に星が生まれます。

赤外線は、可視光では見えない冷たい物質からも放たれています。赤外線で空を観測する事で、目には見えないガスや塵の雲が、銀河系の中でどのように分布しているかが分かります。星が盛んに生まれている場所では、星の光が周囲の塵を暖め、より強い赤外線を放つようになります。赤外線で宇宙を観測する事で、活発に星が生まれているところを調べる事ができます。


1. 波長9ミクロンでみた宇宙の姿

Fig.1

図 1: 波長9ミクロンでみた宇宙の姿

「あかり」は、全天を赤外線で観測しています。この図は波長9ミクロンでみた宇宙の姿です。中心から帯状に左右に拡がる明るい部分は、銀河系の円盤部分をその中にいる地球から真横に見たものです。画面中心付近の明るくなっている部分が、我々の銀河系の中心の方向にあたります。この方向では、塵だけでなく、年老いた赤く・明るい星(赤色巨星)が密集していて、特に明るく見えています。帯の中、あるいはそれから連なる部分には、盛んに星が生まれている領域があります。それらは、生まれたての星で暖められた塵が強い赤外線を放ち、明るく輝いて見えます。なお、この画像では、太陽系内の塵からの赤外線放射の成分を大まかに取り除いてあります。

Fig.2

図 2: 図1の各領域説明 (この画像は、株式会社アストロアーツのステラナビゲータを使用して名古屋市科学館が作成しました。)

図2には図1と同じ絵の上に著名な天体や、赤外線で明るく輝く、活発に星が生まれている領域を示しています。これらの絵は、我々の銀河系の中のどの場所で、どれくらい活発に星が生まれつつあるかを一目瞭然に示してくれます。この絵の元となった観測データを詳細に解析する事で、それぞれの星生成領域の物理的状況をより詳しく調べる事ができます。

画面右下に「大マゼラン雲」と示されている天体があります。大マゼラン雲は、我々の銀河系のすぐ隣にある小さい銀河で、銀河全体で活発な星生成活動が起きています。このことは、この銀河がやはり赤外線で明るく輝いている事ことからも分かります。この絵には見えていなませんが、宇宙の中には非常に活発に星を作りつつある銀河がたくさんあります。「あかり」はそのような銀河も拾い出して、宇宙の歴史を探る研究を行っています。

2. オリオン座周辺の波長140ミクロン赤外線画像

Fig.3

図 3: オリオン座周辺の波長140ミクロン赤外線画像

オリオン座を含む 30°×40°の領域の140ミクロンでの赤外線画像。これほど広い領域を一望するイメージを作成できるのは、全天サーベイ観測を行った「あかり」ならではのことです。100 ミクロンを越える波長で、このような広い領域の詳細な観測を行う事は、今後まずあり得ないでしょう。

画像の右半分がオリオン座、左側はいっかくじゅう座。銀河面は、画面左側を上下に走っています。画面全体が赤く光っているのは、銀河系内の星間空間に漂う冷たい塵が放つ赤外線を観測しているからです。

オリオン座の下側にひときわ明るく輝く天体はオリオン大星雲です。ここでは、大量の星が生まれ続けており、それによって暖められた塵が強い赤外線を放っています。また、三つ星の左側の明るい天体は、馬頭星雲を含む領域で、可視光では暗黒星雲として見える冷たい塵の雲も、赤外線では輝いて見えることが分かります。左側中心付近に見える拡がった明るい星雲は「バラ星雲」で、ここでも新しい星が生まれつつあります。それ以外にも、たくさんの星生領域が輝いて見えます。オリオンの頭に当たるところを中心に大きく拡がった円上に見えるのは、かつてその中心部でたくさんの重たい星が作られ、それが次々に超新星爆発を起こして周囲のガスや塵を吹き飛ばして出来た「殻」です。

オリオン大星雲は太陽から約1500光年の位置にあり、またバラ星雲までは約3600光年です。

3. 「はくちょう座-X領域」の赤外線画像

Fig.4

図 3: 「はくちょう座-X領域」の赤外線画像

「はくちょう座-X領域」と呼ばれる領域の「あかり」による赤外線イメージ。(7.6°×10.0°) の範囲を表示しています。この領域は、銀河系の渦状腕の内、太陽系が属する"オリオン腕"を腕の伸びる方向に透かしてみており、太陽系から 3000~10000光年程度の範囲にある天体が、見掛け上狭い範囲に集まって見えています。画像の左上から右下にかけて、銀河面が横切っており、Cygnas-X領域はその上に重なって見えています。

画像の中に見える数多くの明るく輝いている天体は、質量の大きい星が生まれている場所です。生まれたての星からの光が、周囲のガスを電離し、塵を暖めて赤外線で明るく輝かせています。このように質量の大きい星が誕生する場が密集してみえる領域は、全天でも多くありません。この画像をよく見ると、大きく空洞になったような暗い部分が見えます。これは、成長した高温の星の集団が、強い光により周囲のガスと塵を吹き払ってしまったものです。

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