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小惑星探査機「はやぶさ」が旅立った後の小惑星イトカワの観測に成功!!

小惑星探査機「はやぶさ」 は、今年の4月下旬に地球に向けて 小惑星イトカワから旅立ちました。それから約3ヶ月後の2007年7月26日、その小惑星イトカワを赤外線天文衛星「あかり」が撮影する事に成功しました。


図 1は、「あかり」の観測装置の1つ、近・中間赤外線カメラによる、波長7マイクロメートルでとらえたイトカワです。わずか12分間ほどの観測中に、小惑星イトカワが画面の中を移動しているのが分かります。その様子を表したのが動画1です。これは波長7マイクロメートルと11マイクロメートルの画像を時間順に並べたものです。

Fig.1

図 1 (クリックして再生): 「あかり」搭載の近・中間赤外線カメラによる、波長7マイクロメートルで撮影したイトカワの画像。観測は日本時間2007年7月26日の20時23分から20時35分(世界時で11時23分から11時35分)にかけて行われました。この間に撮影した画像の中から3枚を選び出して重ね合わせ、イトカワの動きを示しています。画像に示した範囲は約7.4分角×7.4分角です。

「あかり」が観測した時、小惑星イトカワはさそり座の方向にあり、可視光での明るさは約19等級でした。また、地球からイトカワまでの距離は約0.28天文単位(1天文単位は約1億5000万kmなので、4,200万kmにあたる)で、ちょうど地球に一番近づいてる時期の観測でした。このために、「あかり」の短い観測中でも小惑星イトカワが大きく移動している様子がはっきりと分かります。なお、「あかり」と同じ口径の地上の望遠鏡では、同じ撮影時間でこのようにくっきりと撮影する事は困難です。「あかり」による高感度赤外線観測の威力が良く分かります[1]

「はやぶさ」は、あかりが観測した時には地球から約4,070万km の距離にあり、地球帰還に向け、順調に航行を続けています。今後、図 2にある軌道にそって、地球は約3周、「はやぶさ」は約2周太陽の周りを回った後、2010年6月に「はやぶさ」は地球に帰還する予定です。2007年8月22日現在は、地球から約5,000万 km の距離にあります。

Fig.2

図 2: 観測時の地球とイトカワの位置関係を慣性座標系(黄道座標系)で示します。地球、火星、イトカワ、「はやぶさ」は矢印の向きに公転しています。地球は約3周、「はやぶさ」は約2周太陽の周りを回った後、2010年6月に「はやぶさは」地球に帰還する予定です。

「はやぶさ」が探査した後に「あかり」が小惑星イトカワを観測する意味があるのでしょうか?一般に、小惑星を研究する上で、大きさというのは重要な情報です。イトカワは「はやぶさ」が直接正確な形状まで測定しましたが、探査機が行かない場合には、望遠鏡による観測などから様々な方法で推定します。実は「はやぶさ」が小惑星イトカワを探査する前にも、我々は地上の望遠鏡を使って観測を行い、そのおおよその大きさを求めました。いくつかの異なる方法から予測された大きさのうち、実際の小惑星イトカワの大きさに一番近かったのは、今回の「あかり」による観測と同じ、中間赤外線の観測データから求めた大きさでした。今回の「あかり」は、地上観測ではデータを取得できない部分も含む複数の赤外線波長帯で、小惑星イトカワをあらためて精度良く観測しました。この観測データは、イトカワをはじめとする小惑星の性質を詳しく調べ、また小惑星の大きさを推定する精度を更に向上させるために、大変貴重な情報だといえます[2]

「あかり」は今後の小惑星探査ミッションの候補天体になるであろう複数の天体の観測を行っています。小惑星イトカワの時と同様に、候補天体についての詳細な情報が得られる事が期待されます。

本観測は、「あかり」太陽系天体観測チームによる小惑星研究プログラムの一貫として、JAXA月惑星探査推進グループおよび宇宙科学研究所の長谷川直氏を中心とする研究グループによって行われました。


  1. 小惑星イトカワに届いた太陽光は、そのほとんどが表面で吸収され、小惑星を暖めるのに使われます。反射されるのはごく一部の光なので、可視光での観測では暗く見えます。一方、暖まったイトカワは、赤外線を放射するので、「あかり」による観測では明るくはっきりと見えるのです。
  2. 小惑星の温度は、太陽から受ける光エネルギーと、小惑星から放出される赤外線放射エネルギーのバランスで決まります。小惑星の形や回転、表面の状態などを考慮して、小惑星の温度分布を詳しく計算する「小惑星熱モデル」の作成が進められています。「あかり」などによる中間赤外線観測は、小惑星から放出される赤外線をとらえているので、熱モデルで計算した温度から、放射される赤外線の量を見積もり、観測と比べることによって、小惑星の大きさなどの情報を知ることが出来ます。逆に、イトカワのように、実際の大きさや形状、表面の状態が精密に分かっている小惑星について、観測と計算値を比較することで、熱モデルをより精密に改良することが出来ます。 「あかり」による観測では、今回示した以外の波長でも観測を行なっており、さらに詳しい解析が可能になります。例えば、小惑星の表面の状態がどのように赤外線の放射特性に関係するのか、また逆に赤外線観測からどのように精度良く表面の状態を推測するかについて理解を深めることができます。イトカワの観測データは、特に地球のそばを通過する小さな小惑星のモデルを改良し、その信頼性をさらに向上させるのに役立つと考えられます。このことは、例えば将来地球に衝突する可能性のある小惑星が見つかった際に、その大きさをあらかじめ速やかに、正確に推測することを可能にします。

Hayabusa data archives

http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2007/0424.shtml

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