Instrument

こちらのサイエンスを実現するための装置が、中間赤外線観測装置SMI (SPICA Mid-infrared Instrument) です。SMIは、波長10–36μmの中間赤外線帯において、史上最高の感度で撮像と分光を行なうことが出来ます。そのために、SMIには3つの分光装置 (LR, MR, HR)と1つの撮像装置 (CAM)が搭載されます。SMIの開発は、日本国内の大学と宇宙科学研究所を中心とする、SMIコンソーシアムが担当します。


SMIの光学系や検出器の配置の模式図。LRとCAM, MRとHRは、それぞれ光学系の一部を共有している。

  • 低分散分光装置 LR (Low-Resolution spectrometer)

    低分散分光装置LRは、10分角の細長いスリットを4本備えたプリズム撮像分光器です。 LRは、波長17–36μmの帯域において、適度な波長分解能(R=λ/Δλ=100)と高い感度を兼ね備えています。 LRはCAMと組み合わせて使うことで、その威力を発揮します。現在計画されているサーベイ観測では、多環式芳香族炭化水素 (PAH; Polycyclic Aromatic Hydrocarbon) やシリケートによるダストバンド放射などを手掛りに、膨大な数の遠方(赤方偏移 z > 1)の銀河や活動銀河核、また恒星周囲の惑星系形成の現場を探査することが出来ると期待されています。

    (図) LRの4本のスリットとCAMの視野の関係。LRのスリットに天体が入ると、その天体の赤外線スペクトルが取得できる。スリットに対応する天域以外の領域が、CAMで撮像される。LRとCAMを組み合わせて空をスキャンすることで、広い領域の高速かつ高感度なサーベイできる。(Kaneda et al. 2017, PASA)

    広視野カメラ CAM

    CAMは、10 分角×12分角の広い視野で波長34μmを観測する中間赤外線カメラです。これまで、波長30μmの帯域では、高感度なサーベイ観測は行われてきませんでした。CAMを用いれば、史上初めてこの帯域での大規模な高感度サーベイ観測が可能になります。またCAMは、LRでの観測中に、目的の天体とスリットの位置関係を知るためのスリットビューアーとしての役割も果たします。

  • 中分散分光装置 MR (Mid-Resolution spectrometer)

    中分散分光装置MRは、長さ1分角のスリットとエシェル回折格子を組み合わせた撮像分光器です。MRは、波長18–36μmの帯域において、高い感度と比較的高い波長分解能(R=λ/Δλ=1,000)を兼ね備えており、LRが検出した遠方の銀河や惑星系形成の現場の詳細な分析など、幅広い観測への利用が可能です。MRの大きな特徴は、ビームステアリングミラーを搭載している点です。これにより、MRは数分角の領域を衛星の姿勢を変更することなく高速にマッピング観測できるため、特に近傍銀河などの拡がった天体の分光マッピング観測に威力を発揮すると期待されています。

    (図)MRとアメリカのSpitzer衛星に搭載された赤外線分光装置 (InfraRed Spectrograph; IRS) のサーベイ速度の比較。同じ時間に同じ感度で観測できる領域の広さを示している。

  • 高分散分光装置 HR (High-Resolution spectrometer)

    高分散分光装置HRは、波長分解能(R=λ/Δλ=28,000)で波長λ = 10–18μmをカバーする分光器です。HRの高い分解能は、分子ガスの運動を検出するのに最適です。HRを用いれば、分子ガスの運動を手掛りに、活動銀河核が噴出する分子アウトフローや惑星系形成の現場を研究することができます。一般に、高い波長分解能を得るためには、分光器のサイズを大きくする必要があります。一方、衛星に搭載する装置の場合には、大きさや重量には制限があります。そこでHRでは、イマージョン回折格子という技術を使って、分光器の小型化を目指しています。イマージョン回折格子は京都産業大学の赤外線高分散ラボ(LiH)の協力のもと、開発を進めています。

    (図)LiHで開発中のCdZnTeイマージョン回折格子の写真 (Ikeda et al. Appl. Opt. 54, 5193 (2015))

Fact Sheet

(Ver.13.1, 2020年 9月 21日 PDF版)

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