銀河の構造と進化を探る

活動的銀河核の構造を探る

宇宙の進化

多くの銀河の中心には超巨大ブラックホールが存在するとされています。「活動銀河核」は、そのようなブラックホールに大量のガスが落ちることで、明るく光る銀河の中心領域です。大きなエネルギーの放出により、銀河自体の進化に影響を与えるため、活動銀河核は銀河進化を研究する上で重要な天体です。その中で、ブラックホールを取り囲む「分子トーラス」というドーナツ状のガス構造が、活動銀河核の特徴を左右するとされています。そのため、活動銀河核の理解のためには、分子トーラスの内部構造の理解が不可欠となっています。しかし、トーラスの直径は銀河全体の1万分の1程度と小さく、内部構造を撮像するのは困難です。

そこで、私たちは、右の図にあるように、明るい高温ダスト放射を背景光として、 その手間の分子トーラス内の分子による吸収を観測するという新しい手法を開発しました。具体的には、一酸化炭素COの振動回転遷移(波長4.7μm、v = 0- 1、ΔJ = ±1)の 吸収線により、分子トーラス内部の速度構造を調べることに成功しました。この観測から、トーラス内部の乱流が、トーラス構造を維持するのに本質的に重要であることを明らかにしました。さらに、トーラスの進化の情報をもたらすと期待されています。

赤外線銀河のエネルギー源を探る

遠方の銀河

銀河における星形成活動を探ることは天文学の大きな課題です。そのために水素原子の再結合スペクトル線(水素再結合線)が基本的なツールとして広く使われてきました。ところが、赤外線天文衛星「あかり」は、水素再結合線が、超高光度赤外線銀河において、従来の理論では説明できない異常な値を示すことを発見しました。具体的には、水素再結合線 BrβとBrαとの強度比が、右図に示すように、理論的な予測値を大幅に上回ったのです。

このようなことが起きるためには、超高光度赤外線銀河における水素ガス雲が、我々の銀河系のガス雲よりも、千倍以上も高密度である必要があります。超高光度赤外線銀河では、爆発的な星形成が起きていることが知られていますが、その成因は明らかになっていませんでした。「あかり」の観測により、爆発的な星形成が、高密度ガス雲によりひき起こされた可能性が示唆されています。この仮説を、私たちは、昨年に打ち上げられた James Webb Space Telescope により、検証することを予定しています。

超大質量ブラックホールの誕生と進化

宇宙の進化 わたくしたちの銀河系の中心には、太陽質量の300万倍もの質量をもつ 超大質量ブラックホールが存在することがわかっています。さらに、M87と 呼ばれる銀河の中心には、太陽質量の10億倍を超えるような超大質量ブラックホール が存在します。このように、ほとんどの銀河は、その中心に超大質量 ブラックホールを抱えていることがわかっています。このような超大質量 ブラックホールは、いつ、どのようの形成されたのでしょうか。

わたくしたちは、「あかり」を用いて、遠方のクエーサーの中心核に 存在する超大質量ブラックホールの質量を調べました。その結果、赤方偏移5 (125億年前)の宇宙においても、太陽質量の100億倍にも達するブラックホールが 存在していることがわかりました。宇宙誕生時(137億年前)には、このようなブラックホールは存在していません。したがって、宇宙誕生から10億年あまりの短い 時間の間に、急激にブラックホールが成長したことを示しています。

銀河の進化

宇宙の進化 宇宙における星形成の歴史は、星間塵による減光のために、可視光線では調べることが できません。そこで、わたくしたちは、「あかり」による北黄極領域の高感度の観測と、「すばる」Hyper Suprime Cam の観測とを組み合わせることにより、宇宙における 星形成の進化を調べることに成功しました。その結果、今から80億年前の若い宇宙においては、現在よりも星形成活動が一桁以上活発であったことがわかりました。

銀河の中心には、超巨大ブラックホールが存在し、物質の降着により、大きな光度で輝いていると考えられています。

BeβとBrαスペクトル線の強度比は、従来の理論では 0.565 (図の斜めの線)を超えることはないとされていましたが、「あかり」の観測は、その常識を覆しました。

INDEX↑ | NEXT→