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望遠鏡の概要

SPICA_fig
打ち上げ 時期 2027 - 2028 年度
ロケット JAXA次期基幹ロケット H3
観測期間 3年
衛星 質量 約 3,500 kg (打ち上げ時)
高さ 約 5.3 m
軌道 地球-太陽系ラグランジュ点L2のハロー軌道
観測装置 中間赤外線観測装置 (SMI; 12 - 36 μm)
遠赤外線観測装置 (SAFARI; 34 - 230 μm)
望遠鏡 光学系 リッチー・クレチアン式, 20 μm 回折限界
口径 2.5 m
温度 -265 ℃ (8 K) 以下
材質 シリコンカーバイド (SiC)
質量 約 600 kg
冷却方式 冷凍機 + 放射冷却 (Planck式; V-groove)

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150 万 km彼方の宇宙天文台

望遠鏡を冷却するためには、地球と太陽からの熱の流入を、できる限り抑える必要があります。 また、高感度の赤外線観測のためには、地球大気の影響のない宇宙に出る必要があります (なぜ地球の外から観測するの ? のコーナーをご覧ください)。

そこでSPICAは、太陽-地球系のラグランジュ点<注1>のひとつ「L2」から、観測を行います。 L2は地球から150 万 km離れており、地球からの熱の影響が小さくなります。 さらに太陽と地球がほぼ同じ方向に位置するため、地球と太陽からの熱を同時に遮断するような設計が容易で、 効率的に望遠鏡を冷却することができるのです。

SPICAは日本で初めてラグランジュ点を利用する宇宙望遠鏡です。L2 までこの巨大な衛星を運ぶために、 SPICAはJAXAの次期基幹ロケットH3で打ち上げられる予定です。

<注1> ラグランジュ点:地球と太陽が作る重力と遠心力が釣り合う点。 この点におかれた物体はその場所から動くことなく、 地球と太陽に対して常に同じ位置関係を保つことができる。


図1: 太陽-地球系のラグランジュ点(L1-L5)の模式図。 SPICAが観測を行うL2は地球から太陽と反対側に約150 万 km離れている。


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冷却望遠鏡の威力

全ての物体は、その温度に応じた波長の赤外線を放射します (図1の左。または、赤外線ってなんだろう ? のコーナーをご覧ください)。 望遠鏡が温かいと、それ自身が赤外線を放射してしまうため、高感度の赤外線観測はできません。 そこで、SPICAでは口径2.5 mの大きな望遠鏡を、まるごと-265 ℃(絶対温度 8 K)の極低温に冷却します。 これまで最も高感度な遠赤外線観測を行ったESAのハーシェル宇宙赤外線望遠鏡でも、 望遠鏡の温度は-193℃ (80 K)でしたから、SPICAがいかに冷たいかが分かります。 これにより、 望遠鏡自身から放射される赤外線の強度をハーシェル宇宙望遠鏡の10万分の1に抑えることができます(図1の左)。 また、SPICAはハーシェル宇宙望遠鏡と比べて100倍の高感度を実現することができます (図1の右)。



図2: (左) 望遠鏡の赤外線での明るさと波長の関係を、代表的な温度について図示したもの。 赤い実線はSPICAを、 青い実線は他の宇宙赤外線望遠鏡(ハーシェル宇宙望遠鏡, JWST)を表す。 また、黒い実線は全天からの赤外線放射の強度を表す。
(右) SPICAの感度を、他の赤外線望遠鏡の感度と大まかに比較したもの。 下の方に図示されている望遠鏡ほど、暗い天体を観測できる(つまり、高感度である)ことを表す。

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大口径の全冷却望遠鏡

図1に、SPICAの望遠鏡の模式図を示します。 望遠鏡の口径は直径 2.5 mで、リッチー・クレチアン式の光学系を採用し、 その視野は直径30分です。 鏡面は、波長λ = 20 μmで回折限界を達成できるように、研磨されます。 望遠鏡自身から放射される赤外線を減らし高い感度を実現するために、 観測時には望遠鏡全体が絶対温度 8 K (- 265℃)以下に冷却されます。

このような大きな望遠鏡を衛星に搭載するためには、軽量化がとても重要になります。 また、望遠鏡がきれいな像を結ぶには、歪みの小さい材料で制作する必要があります。 そこで、SPICAの望遠鏡の材料には、軽くて丈夫なシリコンカーバイド(SiC)を採用します。 シリコンカーバイドは、「あかり」衛星や欧州のハーシェル衛星の望遠鏡にも採用されており、宇宙観測での実績は十分にあります。 これにより、これだけ大きな望遠鏡にもかかわらず、その質量を約600 kgにおさえることができます。

なお、望遠鏡の製作は、ESA(欧州宇宙機関)が担当します。



図3: SPICA望遠鏡の模式図。

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日本独自の機械式冷凍機

これまでの科学衛星では、望遠鏡や観測装置を極低温に冷却するために液体ヘリウムを用いるのが一般的でした。 しかし、液体ヘリウムを満たした容器の中に望遠鏡を設置する必要があるため、大きな望遠鏡を搭載することは非常に困難でした。 また、液体ヘリウムは次第に蒸発するため、極低温を維持できる期間にも制限がありました。

そこでSPICAでは、望遠鏡や観測装置の冷却には液体ヘリウムを使用せず、機械式冷凍機を搭載することにしました。この結果SPICAは、口径2.5m(集光力は「あかり」衛星の約10倍)の大きな望遠鏡を搭載することが可能になり、3年(「あかり」衛星の約2倍)という格段に長い設計寿命となります。

SPICAでは、日本の独自技術で世界最高の冷却能力を達成した1Kクラス、 4Kクラスの2種類のジュールトムソン冷凍機(機械式冷凍機の一種)を使って、望遠鏡や観測装置を極低温に直接冷却します。その開発を担っているのが、宇宙航空研究開発機構の研究開発部門です。これらの冷凍機は、SPICAに限らずX線観測衛星ASTRO-Hにも搭載されるほか、宇宙背景放射観測衛星 LiteBIRD への搭載も検討されており、日本の科学衛星を支える重要な技術となっています。

なお、冷凍機開発の詳細については、宇宙航空研究開発機構の研究開発部門の 宇宙用機械式冷凍機の研究開発のページ をご覧ください。


図4:JAXAが開発した 1K ジュールトムソン冷凍機の冷却試験中の様子 (Sato et al 2015)。 2段スターリング冷凍機は、1K ジュールトムソン冷凍機の予冷に使用している。


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V-groove式熱シールド

"全冷却望遠鏡"を実現するためには、望遠鏡や観測装置を冷凍機で直接冷やすだけでなく、 太陽からの熱やサービスモジュールに搭載された装置が発生する熱が、 冷たい望遠鏡へ伝わらないようにする工夫も必要です。

そこでSPICAでは、ESAのPlanck衛星で実績のあるV-groove式の熱シールド<注2>を採用します。 V-groove式の熱シールドは、V字型の絶妙な角度で配置された"日よけ"です。 図4のように、SPICAではサービスモジュールと望遠鏡の間に3層のV-groove式熱シールドを設置します。 シールドとシールドの間で熱を横の方へ逃がすことで、 太陽、地球、そしてサービスモジュールからの熱が望遠鏡へ伝わらないように、効率よく断熱します。 これによって、サービスモジュールからペイロードモジュールに向けてシールドの温度が少しずつ下がり、 望遠鏡や観測装置を極低温に冷却することができます。

<注2> Planck衛星の熱設計のウェブページ (英語)


図5: 現在検討中のSPICAの熱構造のデザイン。 3層のV-groove式熱シールドで、太陽やサービスモジュールで発生した熱が、望遠鏡に伝わるのを防いでいる。 (ESAとJAXAが共同で行った "次世代冷却赤外線望遠鏡(Next Generation-Cryogenic cooled Infrared Telescope)"に関する技術検討の成果報告書 の図を元に、日本語向けに修正した)。


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中間赤外線観測装置 SMI

波長が λ = 20 - 40 μmの中間赤外線の帯域には、 宇宙の塵が放出するバンド放射 (ダストバンド放射) が存在します。 例えば、多環式芳香族炭化水素 (PAH; Poly-Aromatic Hydrocarbon) によるダストバンド放射は、 星生成活動を探る手掛りになることが、近傍の銀河の観測から知られています。 しかし、この中間赤外線帯域の高感度観測は、これまでほとんど行われて来ませんでした。

SPICAに搭載される中間赤外線観測装置 SMI (SPICA Mid-Infrared Instrument)は、 波長 λ = 12 - 36 μmの帯域で、史上最高の感度で撮像と分光を同時に行う装置です。 この帯域を3つのチャンネルSMI-LRS, SMI-MRS, SMI-HRS でカバーします。 SMIの開発は、日本の大学と宇宙科学研究所を中心とする、SMIコンソーシアムが担当します。

  • SMI-LRS (Low-Resolution Spectroscopy)
    10分角の細長いスリットを4本備えた、プリズム分光器です。 波長 λ = 17 - 36 μmを、適度な波長分解能(R=Δλ/λ=50)で、撮像と分光を同時に高速で行うことが出来ます。 SMI-LRSは、サーベイ観測を行うことにより、PAHのダストバンド放射を手掛りに、 遠方の銀河を探査します。また、鉱物からの放射を手掛りに、恒星の周囲で惑星が形成されている現場を探査します。
  • SMI-MRS (Mid-Resolution Spectroscopy)
    エシェル回折格子を搭載した赤外線分光器で、波長λ = 18 - 36 μmをカバーします。 比較的高い波長分解能(R=2000)で、高い輝線感度を持つことが特徴です。 SMI-MRSでは、SMI-LRSが検出した遠方銀河や惑星形成の現場を、詳しく分析できます。
  • SMI-HRS (High-Resolution Spectroscopy)
    イマージョン回折格子を搭載した、非常に高い波長分解能(R=28000)をもつ赤外線分光器です。 波長λ = 12 - 18 μmをカバーします。分子ガスが放出する輝線の検出に最適です。 SMI-HRSを用いれば、分子ガスの運動を手掛りに、惑星形成の現場を研究することができます。

なお、SMIの性能に関する最新情報は、 "研究者向け情報" のコーナーをご覧ください。



図6: SMIのブロック図

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遠赤外線観測装置 SAFARI

SPICAに搭載される遠赤外線観測装置 SAFARI (SpicA FAR-infrared Instrument)は、 波長 λ = 34 - 210 μm (検討中) の広帯域遠赤外線で、 適度な波長分解能 (R=300) と史上最高の輝線感度を兼ね備えた回折格子分光器です。 その高い感度を実現するために、SRON (オランダ宇宙研究所) が開発している世界で最先端の TES (Transition Edge Sensor) ボロメター(図3)を、遠赤外線検出器として採用しています。 また、回折格子にファブリペロ干渉計を組み合わせることで、 高い波長分解能(R=3000)での観測を可能にするオプションも、検討中です。 ビームステアリングミラーによって、2分角四方の領域を撮像観測することができるため、 広がった天体に対しても有効です。 SAFARIの開発は、欧州各国とカナダ, アメリカで組織された、SAFARIコンソーシアムが担当します。

SAFARIの帯域には、電離したガス中のイオンが放出する様々な輝線が存在します。 SAFARIによる高感度な観測で、遠方の銀河からこれらの輝線を検出することで、 銀河における星生成や銀河中心の超巨大ブラックホールの活動の歴史を探ることができます。

なお、SAFARIの性能に関する最新情報は、 "研究者向け情報" のコーナーをご覧ください。



図7: SAFARI 冷却ユニットの概要図。

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他の大型計画との関係

SPICAが稼働する2020年代後半には、 サブミリ波望遠鏡 ALMA, 可視・近赤外線望遠鏡 TMT, 近・中間赤外線宇宙望遠鏡 JWSTなどの大型望遠鏡が稼働しています。 下の図には、これらの大型望遠鏡の特徴を簡単に比較して、示しました。

ALMAは天体形成の「材料」を、TMT・JWSTはその「結果」としての成熟した天体を解明します。 しかしながらこれらだけでは、 その間をつなぐ一番重要な「過程」すなわち天体形成の様子が不明のままです。 SPICAは、「材料」と「結果」を結ぶ「過程」を解明し、天体形成解明のジグソーパズルを完成させます。 SPICAと他の次世代の天文観測機器が相互に連携する事により、天体の進化を材料から過程そして結果に至るまで 総合的にとらえることができます。

図8:SPICA時代の大型天文観測機器の関係

  • ALMA: Atacama Large Millimeter/submillimeter Array (アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)。 アタカマ砂漠の標高約5000メートルの高原に建設された、パラボラアンテナ66台による干渉計方式の巨大電波望遠鏡。 すでに、2013年から観測を開始している。
  • TMT: Thirty Meter Telescope (30m望遠鏡)。 日本の国立天文台・米国カリフォルニア大学・カリフォルニア工科大学・カナダ大学連合などが中心となり、 2024年稼働開始を目指して建設計画が進められている。
  • JWST: James Webb Space Telescope (ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)。 ハッブル宇宙望遠鏡の後継機という位置づけで、 NASAが開発中の天文衛星。2018年に打ち上げが予定されている。
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